大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)12415号 判決 1999年1月28日

原告

日本リテイルシステム株式会社

右代表者代表取締役

和田誠

右訴訟代理人弁護士

村田敏

被告

スタルコ エス・エー

右代表者社長

ヤニス・カルータ

右訴訟代理人弁護士

松村祐土

澤口実

増田晋

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求

被告は、原告に対し、七六一二万五四五六円及びこれに対する平成三年一〇月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  事案の概要

1  原告は、平成三年五月一七日、被告との間で、原告が、被告に対し、別紙契約内容のとおりキャッシュレジスターを販売する旨の売買契約を締結した(以下これを「本件売買」という。)。

2  原告は、同年七月上旬、本件売買に基づき、製品を株式会社日新の横浜倉庫に搬入して出荷準備を整え、同月一四日、被告に対し、荷状を送り、受領を催告した。

3  しかるに、被告は、同月二三日付け及び同月二六日付けのファックスをもって引取りを拒絶した。

4  原告は、同年一〇月一七日付けのファックスをもって、被告に対し、本件売買を解除する旨の意思表示をした。

5  本件は、原告が、被告に対し、本件売買の債務不履行を理由に原告が被った得べかりし利益等の損害合計七六一二万五四五六円の賠償を求めたものである。

6  被告は、本案前の主張として、次のとおり主張した。

(一)  国際裁判管轄の欠如

被告は、ギリシャ法人であり、その住所、すなわち、本店所在地は、ギリシャ共和国マグネシア州ヴァロス市にある。被告は、我が国には、住所はおろか、主たる事務所や営業所を有さず、一切の財産を有しない。したがって、我が国には、普通裁判籍も財産所在地の裁判籍もない。

本件は、債務不履行(被告の引取義務違反)を理由とする損害賠償請求であるから、義務履行地の裁判籍が問題となるが、これを認めると、すべての債務不履行責任の追及の訴訟を我が国で行えることになり、当事者の予測可能性の点においても、証拠の蒐集の点においても著しく不平等な結果を招きかねない。そこで、契約上の債務については、義務履行地が契約上明示され、又は契約上一義的に明確であるというような特段の事情のない限り、義務履行地としての国際裁判管轄は否定すべきである。

(二)  原告は、既にギリシャで本件と訴訟物を同じくする民事訴訟を提起しており、本件を我が国において提起することは、二重起訴禁止の法理に照らし、許されない。すなわち、原告は、被告を相手方として、平成六年一月一〇日付け訴状をギリシャ共和国アテネ第一審裁判所に提出した。この訴えは、原被告間に本件売買が成立したことを前提として、被告がこれに違反して製品の引取りを拒否したために、原告が損害を被ったとして、総額二億三〇四一万〇五八四円の支払を求めるものである(乙一)。

原告は、平成六年一一月二日付けの補充訴状において請求の趣旨を変更し、総額三三五三万六三三一円の給付請求及び一億九六八七万四二五三円の債権存在確認請求を行ったが、同裁判所は、平成七年三月二日に中間判決を行い、前者について棄却し、後者については証拠不十分を理由に終局判決を留保し、その判断の資料を得るために原告に対して立証を命じている(乙二)。その後、原告は、右命令に応じないまま今日に至っており、右訴訟は、現在も同裁判所に係属している(乙三)。

原告は、訴訟管轄地としてギリシャが適切と判断した上で本件売買に基づく被告の責任追及の訴えを既に提起しているのである。被告は、これに応訴し、訴訟活動を行った結果、その請求の一部が棄却され、残部については証拠不足として原告に立証が命じられたのである。にもかかわらず、原告は、ギリシャでの訴訟が自己に不利に進行していることから、補充の立証を行わぬまま放置し、今度は日本で同一の訴えを提起したのである。

本件における原告の真の狙いは不明であるが、自己に不利な内容を含む中間判決が宣告されたという経緯に照らすと、自己の劣勢を挽回すべく本訴に及んだものと考えられ、かかる不当な動機に基づく二重起訴が違法であることは論をまたない。

さらに、本件では、被告は、我が国において執行されるべき財産を一切保有していないから、原告の我が国における救済に配慮する必要性はない。しかも、原告は、一度はギリシャを法廷地として選択しているのであり、原告の資力等を併せ考えると、我が国の裁判籍を否定したからと言って、その裁判を受ける権利の保障を剥奪することにもならない。

以上によれば、本件訴えの提起は、不適法な国際二重起訴であると言わざるをえない。

三  争点に対する判断

1 証拠(甲一ないし一〇、乙一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、被告の主張記載の事実が認められ、右事実によれば、本件訴えの提起は、不適法な国際二重起訴と言うほかない。

2 よって、本件訴えは不適法であるから却下する。

(裁判官髙柳輝雄)

別紙契約内容<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例